【対談】狭小住宅に特化した設計事務所、ネイティブディメンションズ鈴木淳さんの家づくり

今年10月に投稿した記事「#013 延床面積23坪。Wさん夫婦が小さな家を建てた3つの理由」のW邸、2016年7月に投稿した「#001 延床面積15坪。小さな住まいに流れる、心地いい時間」のY邸を設計した、ネイティブディメンションズ一級建築士事務所の鈴木淳さん。狭小住宅に特化した設計事務所として、「mini stock」と名付けた住宅シリーズを展開しています。
今回、鈴木淳さんが狭小住宅に特化して設計を行う理由を詳しくうかがうために、対談形式の取材を行いました。デイリーライブズニイガタ編集部の私・鈴木亮平が、ネイティブディメンションズの鈴木淳さんに対談形式でお話をうかがうというもの。

デイリーライブズニイガタ編集部の鈴木亮平(写真左)、ネイティブディメンションズの鈴木淳さん(写真右)

お互いにアウトドア好きということで、場所は阿賀野市の五頭山麓憩いの森キャンプ場で。森林浴をしながらの対談となりました。

ネイティブディメンションズ鈴木淳さんの狭小住宅について

鈴木亮平(以下、亮):では最初に狭小住宅の特徴について改めて教えて頂けますか?

鈴木淳さん(以下、淳):はい、まず物理的なことで言えば、小さい分冷暖房費が安くなるとか、掃除が簡単になるというメリットがあります。それから、これは人によってメリットになるかデメリットになるか分かれますが、家族との距離が近いという特徴がありますね。デメリットとしては、モノが増えると住みにくくなることが挙げられます。それから、家をつくる時の話をすると、使う材料が少なくて済むというメリットがあります。
そして、住まい方としては、「なんでも使い回す」という発想が必要となってきます。ビクトリノックスの十徳ナイフみたいに、1つで複数のことを行うような感覚ですね。

mini stock01のY邸はダイニングがリビングを兼ねている。

狭小住宅は、設計する側の立場としては、無駄をつくれないのですごく緊張感があります。本質だけを残さないと住みにくくなりますので。

亮:本質だけを残して、ぜい肉をそぎ落とすような感覚なんですね。

淳:はい、どんどん不要なものを削ぎ落として小さくしていくイメージです。どこまで削れるのか!?と。ただ、砂時計の砂が狭くなったところを通ってから広がるように、削ぎ落とした後に「必要な無駄」を付け足したくなるんですよ(笑)。それを付け足すことで、小さいんだけどゆとりを感じさせるような家になると考えています。理由のある無駄、という感じです。

亮:徹底的に削ぎ落とし続けるものだと思っていましたが、後から逆に付け加えているんですね。

淳:それによってホッとする、安らげる場所ができるのかなあ、と。

亮:それは最近の記事(#013)のWさんの家だとどんなところですか?

淳:例えば玄関に入ったところの正面の飾り窓がそうですね。障子の後ろから光が見えるので、その奥の部屋と繋がっているように見えるんですが、実は壁を30cmくらいふかして照明を入れているんです。30cmあればその壁一面に棚や下駄箱をつくることもできるんですが、飾り棚の奥行き感をつくりたいためだけに残りの壁を無駄にしています(笑)。

この飾り棚はWさんと打ち合わせで盛り上がりながら作ることにしたんですが、住み始めてから「あの時一緒に馬鹿話で盛り上がりながら作ったなあ」なんて思い出しながら、クスっとなるような場所になればと思っています。

亮:合理性を突き詰めているとばかり思っていましたが、そういう非合理的なものが隠されているんですね(笑)。そして、このタヌキの表情がまた抜けた感じでいいですね…。Wさん夫婦の使い方もうまい(笑)。

淳:毎回そういったものを作っています。時には完成するまでお客さんに言わずにこっちのイタズラとして仕込んでおくこともありますね(笑)。
ちなみに、削ぎ落としていくのも、無駄を付け加えるのも、基本的にお客さんと一緒にやっていくので、家の全てに打ち合わせの形跡が残っていくような感じで。それで「引っ越した瞬間から愛着が湧きます」と言って頂くことがありますね。

亮:W邸のキッチンと小上がりの間にお仏壇や作業台、収納などの造作家具があり、空間と家具が一体になっているのが印象的でした。やはり狭小住宅ゆえに、家具を空間と一体にしないとうまく収まらないというのがあるのでしょうか?

淳:造作家具については、お客さんから「どんな提案をしてくれるんだろう?」と期待されている部分でもありますね。以前と比べて造作家具を造り込むことが増えています。元々自分でもそこを考えるのが好きなんですが、実績が増えるごとに期待値が上がっているような気がします(笑)。
実際、大きな納戸よりも、片付ける場所が決まっている小さな収納が手の届く範囲にある方が、片付けるのも出すのも簡単なんです。お客さんがどういうものを持っていて、どんな場所に収納があるといいかなど本人のクセのようなものまで聞いて提案しています。

亮:そうやって緻密な造作家具の設計がなされていたんですね。キッチンの作業台の下がティッシュ置きとゴミ箱スペースになっているのを見た時は「ここまでやるのか!」と驚きました(笑)。でもたしかにすごく便利そう。

淳:でもお客さんに聞いても毎回答えがはっきりと出てくるものでもないんですね。なので、なるべくいっぱいお話をして見つけていく感じです。Wさんはかなり具体的なイメージを持たれていたので、キッチンまわりのレイアウトはすぐに具体的に詰めていけましたが。

亮:W邸の間取りはどのように決めていったんですか?

淳:狭小住宅の場合は、たくさんのバリエーションがあるというよりは、使いやすい間取りというのがある程度絞られてくるんですね。そこをベースにお客さんの生活を落とし込んでいく感じになりますね。なので、これまで設計してきた家も、1階のプランが全く同じとか、2階のプランが全く同じっていうのはけっこうあるんです。そこに細かい部分が足されて見え方は変わりますが。

今回のWさんの家は、4人家族想定の2階リビングのプランで新しいパターンでした。今後同じ家族構成のお客さんから依頼があった場合には、W邸がベースになっていくのかなと思います。

お客さんとはどのようにして出会うのか?

亮:いつもお客さんとは最初どのようにして出会っているのですか?

淳:初めて顔を合わせるのは見学会が多いですね。ただ、私は見学会の広告を出してなくて、ブログくらいでしか告知をしていないんです。なので、ブログを読んでいる人だけが見学会に来る、という感じです。
ブログを始めてから10年近くになるんですけど、記事は2,600とかそれくらい貯まっているんです。ブログを読み込んで、建物を見たいなあという方が来てくださいます。

亮:では、初めて会う時にはお客さんはかなりブログを読み込んで来られるんですね。

淳:ですね。私がどんな人間かまで分かった状態で来ていただいています(笑)。あと、純粋に小さい家に対しての興味があって見にいらっしゃる方もいますね。小さい家の見本ってなかなかないですから。

亮:みなさん「狭小住宅 新潟」で検索されるんでしょうか?

淳:ですね。「小さい家」とか「狭小住宅」という検索が多いみたいです。
でも、その人がなぜ小さい家に住みたいのかという理由は結構バラバラですね。例えば、今住んでいるアパートの狭さが別に苦じゃなく居心地がいいとか、小さい家で予算内で徹底的にこだわろうとか、住みたい場所が決まっていて敷地の広さや土地の価格による制約があるとか。
あと今、延床面積35坪の店舗併用の二世帯住宅を設計しているんですよ。

亮:二世帯で且つ店舗併用で35坪ですか!それはすごいですね。その実例は、いろんな業種の店舗併用の小さい家の参考事例になりそうです。自分は賃貸住宅に住んでいますが、独立してから仕事部屋を確保するようになったので興味があります。

淳:それから、実現はしなかったのですが、賃貸併用の狭小住宅の相談もありました。施主家族用の住居20坪+10坪の賃貸住宅2室という構成で、家賃収入を得ながら小さく住むという考え方です。狭小住宅のいろんな可能性やニーズに気付かされましたね。

家というよりも家族の距離感や暮らし方を提案。

淳:私がお客さんに提案する狭小住宅って、自分が住んでみたい家であり暮らしなんですよ。ブログ・HPに載せていた自邸の計画を、mini stockシリーズで最初のお客さんであるYさんが2014年に建ててくれたんです。(※記事はこちら→「#001 延床面積15坪。小さな住まいに流れる、心地いい時間。」
あと、子育てに関する自分の考え方もブログに書いているんですが、そこに共感してご依頼を頂くということもあります。高3と中1の娘がいるんですが、子ども部屋もなくいつもリビングで家族4人でげらげら笑ってしゃべって過ごしているんです。最近も改めて聞いたんですけど、2人とも個室を必要としていないみたいで。
なので、自分の中では家というよりも、自分の生活をそのままブログで提案している感じですね。

亮:ということは、mini stockシリーズは基本的には子ども部屋はないんですか?

淳:子ども部屋としての空間はあっても、まともに仕切られていない場合が多いですね。ちなみに、最初に自邸を考えていた時は、夫婦の寝室くらいは個室として必要と考えていたんですけど、今となってはそれもいらないなあと思っています(笑)。完全なワンルームですね。
子育て中のお客さんから相談されることが多いのが、狭小住宅で家族の距離感って実際どうなるの?ということです。そこは私の経験を話すようにしていますね。
あと「たまに一人になれる場所が欲しい」という相談も受けるのですが、それは小さい家でも大丈夫だと思っています。そもそも、家族が常にそんなに注目してないと思うんで(笑)。勝手に一人になれるんですよ。あと、子育て中にあまり「一人になりたい」とか思わなくてもいいんじゃないかなと思っていて。「子どもを育てましょうよ!」と言いたいですね(笑)。それに、子どもが成長して家を出ると、小さい家でも一人になれる場所はできると思いますし。
あと、「mini stock01」の延床面積は15.75坪なんですが、床下やロフトがあるのでけっこう広く使えるんです。単純に床だけで数えれば31坪あって、吹き抜けもあるので、容積で考えると一般的な天井高2,400mmの家に換算すれば23坪くらいの空間になります。ちょっと難しいですけど。
それから、小さいんだけどどこにいても居心地がいい家にしています。小さい上に性能を高くしているので、どこにいても快適温度で過ごせるんですよ。
どこにいても居心地がいい家ってそんなにないと思うんで、それによって感覚的に広く感じられると思うんです。

鈴木淳さんの自邸計画について

亮:今もHPに図面を載せている「mini stock01」が元々淳さんの自邸の計画ということでしたが、今はどう考えていますか?

淳:「mini stock01」は2009年に考えた案ですが、当時の生活スタイルと今の生活スタイルが全く変わっていないので、ほとんど変更する必要がないかなと思っています。強いて言えば、さっき話したようにもう寝室を個室にする必要がないなと思っているので、完全ワンルームになっちゃいますね。
「mini stock01」をベースに2階部分を「mini stock05」にするような感じです。

「mini stock05」写真:吹き抜けを介してリビングと寝室がつながっている。

01は4.5畳の寝室を個室にしていましたが、05はクローゼット以外は7.5畳の細長い部屋があるだけ。必要に応じて間仕切りをしてもいいんですが、それも工事を伴うものではなくて、カーテンや本棚で区切るようなイメージですね。

「mini stock05」写真:寝室と子供部屋

「mini stock05」写真:手前が寝室と奥が子供部屋

亮:建具に障子などの和の要素を使うのも特徴的ですよね。そこにはどんな理由があるんですか?

淳:私のデザインの師匠から「木は思うより硬い。紙を使うことで空間の表情をより柔らかく見せられる」ということを教わりました。壁を艶のない塗料で仕上げたりするのも、空間を柔らかく見せたいという理由でやっています。

亮:小さい家だからこそ、内装の仕上げから感じるものが大きいように思います。居心地に影響する素材感や質感はかなり重要になってきますよね。

淳:でも、とんでもない色の壁にすることもあります(笑)。こんな風に。

「mini stock06」写真:トイレ

「mini stock02」写真:トイレ

「mini stock06」写真:ロフト

亮:わっ…!淳さんは繊細なのか、大胆なのかよく分からないですね!(笑)

W邸について部屋ごとに解説

亮:まずは、玄関について教えて頂けますか?

淳:いつも玄関は機能的な設計をすることが多いですね。生活感を出しながら使える「小屋」を作るようなイメージです。新潟の玄関って、野菜を置いたり、ごちゃごちゃっと使うのが便利というのがあるじゃないですか(笑)。
ただ、今回Wさんからは「しつらえて欲しい」という要望があったので、玄関内の納戸に「簾戸(すど)」を採用して、中がごちゃごちゃしていても見えないようにしています。でも透け感があるので広く見えますし、「奥に何があるんだろう?」という期待感もつくれています。
簾戸の中の照明はWさんからの提案で最後に変更したんですが、それにより、簾から漏れる光がすごくきれいに出るようになりました。
あと、細かいところですけど、階段の最初の一段を納戸の手前まで伸ばしているので、納戸で靴を脱いで上がれるようにしています。玄関に靴を置かなくて済みますし、そういう使い勝手の良さは私がすごく大事にしていることですね。

亮:毎日使う場所なだけに、住む側にとっては重要なことですよね。

淳:あと、玄関に入るまでのアプローチですが、道路から玄関まで3メートルしかないんですけど、植栽や塀であちこちに目が行くポイントを作って奥行き感を表現しています。

亮:植栽や塀がない状態を想像すると、道路から建物がかなり近く感じてしまいます。内部のことだけでなく、外から入ってくるところから考えられているんですね。
次に1階の寝室について教えて頂けますか?

淳:まず寝室の設計にあたっては、「ベッドで寝ますか?布団で寝ますか?」と言うのを聞くことから始めます。だいたい私のお客さんだと半分くらいが布団で寝られています。小さい家だと、布団を片付ければ別の用途に使えるので布団派の人が多いというのがあります。Wさんも布団派ということで4.5畳の和室にしましたが、隣の廊下も畳にして空間を広く感じさせています。
それから、寝室の隣が洗濯室なんですが、「天気のいい日には外干しできるデッキがあった方がいいね」という話になり、デッキを寝室の外につくることで、寝室をより広く感じられるようにしています。

亮:廊下が畳だと、廊下の感じがしないのが面白いです。寝室から見ると部屋が続いているように見えますよね。
では、寝室の隣の洗濯室兼収納について教えてください。

淳:一般的に、洗面室・洗濯室・脱衣室が一体になっていることが多いと思いますが、W邸においてはその3つを全てバラバラにしているんです。実はこの3つって同時に使うこともあるので、バラバラにあった方が使いやすいとも言えます
じゃあ「洗濯」と一緒にあった方がいいのは何だろう?って考えた時に、「物干し」と「収納」という答えになりました。実際、普段着る服って「洗濯して乾いたら着る」という繰り返しになる人が多いですよね。だったら、洗濯・物干し・収納が一体になっているとストレスフリーになりますよね(笑)。

亮:たたむ必要もないし、運ぶ必要もないですもんね(笑)。

淳:これは私の経験談なんですが、子どもが小さい頃2階に子ども部屋を設けていて、子どもには自分の部屋に服を片付けるように何度も言っていました。でも、全然片付けないんです。で、その時に、子どもが片付けたくならない場所にクローゼットをつくってしまった自分が悪いんだ、と思ったんです(笑)。
片付けやすい場所にあれば片付けるけど、片付けにくい場所にあれば片付けない。当たり前のことだなと思って。
ちなみに、物干しと収納を一緒にできるのは、気密断熱性能が高いことの恩恵と言えます。

亮:高気密高断熱が前提にあり、床下エアコンで全館冷暖房と計画換気ができているからこそですよね。もし性能が低い家でやったら、湿気でカビだらけになりかねないですよね。
あと、クローゼット部分が収納ケースを入れられる台になっているのも特徴的ですね。

淳:クローゼットの上の方についてる枕棚って、けっこう使いにくいと言われることが多くて。それを下に持ってきていますね(笑)。これは今回初めて採用した設計です。

亮:たしかに枕棚は手が届かなかったりして使いにくいですよね。あまり使わないものの定位置になることが多いです。

淳:下の部分は無印良品の収納ケースが入る寸法にしていて、下にあるので子どもでも使いやすいですし、そこが台になるので、上の方の棚にも手が届きます。

亮:空間が無駄なく使える設計ですね!
次に1階の洗面スペースの話に移りましょうか。洗面台を広めにつくられていますね。

淳:これも私の経験上なんですが、4人家族になると毎朝「鏡の争奪戦」が繰り広げられるんです。鏡が必要ないけど洗面台に立っている人がいたり、水は必要ないけど鏡を使いたい人がいたりっていう状況がありますが、この洗面台なら2人並んで使えます。

亮:たしかに、歯磨きするのに鏡はいらないですもんね(笑)。

淳:あと一石二鳥が好きなんで、窓と鏡をつなげるようにデザインして、入ってくる光の量が2倍になるように、というのも意図しています。

亮:なるほど…。たしかにここに立った時にすごく明るく感じましたし、広く見えました。

淳:ちょうど廊下の端にある鏡なので、広く見えるんですね。ほかにも玄関の引き戸の内側に姿見をつけて空間の広がりを感じさせるということをよくやっています。ただ、夜に暗闇で見るとビックリするかもしれないので、そこは気を付けてくださいね、と伝えています(笑)。

「mini stock02」写真:玄関引き戸内側に付けた姿見

亮:では、次に2階の話へ移りましょうか。

淳:はい、まず上がる途中の階段ですが、奥様からの要望があって壁に本を収納するニッチを設けています。本を探しながらそのまま腰掛けて読みふけっちゃうような、階段がそのままライブラリーになるようなイメージをしています。
あと、階段の蹴込み板ですが、部分的に切り欠いて、ここから暖気を2階へ上げるとともに、後ろから照明を当ててフットライトの役割も担うようにしています。

亮:そこも一石二鳥ですね(笑)。

淳:2階については、まずヒアリングしていく中で大きかったのが「料理が好き」ということと「お仏壇がある」ということでした。キッチンは2人で立つこともあるという話だったので、2人でも作業がしやすいように通りやすくしています。あと、「料理が好き」という話を聞いたときに、使いやすいのは当然として、そこに立ちたくなるような空間にしたいと思いました。そこで、他ではなかなか見られないキッチンにしたいなと考えて、長さ4.4mのキッチンを提案しました。でも、その時点ではどうやってその大きさのキッチンをつくるかまで考えていなくて(笑)。
ちょうどWさんの方から「キッチンの天板にモールテックスを使いたい」という要望があったんです。で、モールテックスなら、4.4mのキッチンがつくれる!となって。お互いが必要としているものがうまくはまりましたね。
ちなみに「長いキッチンは使いにくい」というセオリーがあります。移動する距離が増えてしまうので。そこで、どうしたら使いやすくて長いキッチンをつくれるかということをWさんご夫婦と一緒に考えました。どこに何を収納するか、どうすると動線が重ならないか?ということを緻密に打ち合わせしましたね。

亮:冷蔵庫もリビング側から見えない場所にうまく隠れていましたよね。

淳:使いやすい場所にありながら一番目立たない場所にしていますね。使いやすいことに加えて、見た目をきれいにすることで生活の質を高められるようにしています。それはW邸に限らずに力を入れているところですね。
あとは、仏間の裏側(キッチン側)は画びょうが刺せる掲示板になっていたり。
それから、テレビ台やキッチンの作業台の厚みを揃えているというのも気を遣っているところですね。これは建築をやっている人間じゃないと気づきにくいところではあるんですが、揃えることで「気にならなくなる」というのがあります。

亮:一般の人にとっては無意識に感じることなんでしょうね。理由は説明できないけど、「なんかすっきりしてキレイ」みたいな。

淳:そうですね。同じ形や同じ幅の線をデザインとして仕込むことで「座りがいい」と感じて頂けると思います。

亮:次にリビングの方に移りましょうか。

淳:リビングの形はここ2、3年変わっていないんですよ。片側が畳で片側がイスの組み合わせです。この「畳が少しある」というのが合理的で、例えば子どもを昼寝させるとか、私の場合は酔いつぶれて寝るとかなんですけど(笑)。それはソファとは違った使いやすさですよね。人との距離が近いというか。
あと、今回はお仏壇を置くということだったので、畳の面積をいつもよりも大きくして、何人かで座れるようにもしています。

亮:リビングがダイニングを兼ねるというのはミニストックの定番スタイルですね。その隣が将来的に子ども部屋として使える場所になっているんですね。

淳:実は「2階リビングの家をつくる場合、子ども部屋を1階につくらない」というのが私がずっとやってきたことです。リビングを通らないと子ども部屋に行けない設計を頑なに変えないでやっています(笑)。で、リビングの隣に子ども部屋があると実際かなり有効に使えるのかなと思います。
例えば、子どもが小さい時はここを寝室にしてお子さんと一緒に寝られますし、フリースペースにして遊べるようにもできます。もちろん個室にもできますし、子どもが成長して家を離れたらまた広く使えます。

亮:冒頭に「1つの場所に複数の役割を持たせる」というお話がありましたが、本当に隅々までそのように考えられていることが改めて分かりました。時間軸も1日の間だけでなく、長期的な目線でも考えられているんですね。

淳:やはりそのためにはヒアリングを重ねることが重要で、話せば話すほど使い勝手が見えてきたり、整理されていったりしますし、互いに気づきが生まれてきます。でもバカ話もして遊びもつくっていったり。そうして、事務所で一人でニヤニヤしながら図面を描いています(笑)。

亮:実に奥が深い…。聞けば聞くほどに細部にまで「理由」が詰まっていることが分かりますね。今日このキャンプ場で泊まりながら話を聞いても、まだ時間が足りなそうです(笑)。

「狭小住宅」というとごく一部の人にしか当てはまらない特殊なものと思いがちですが、少し身近なものに感じていただけたのではないでしょうか?
特に、家族とどのような距離感で暮らしているのか、また、今後どのような距離感で暮らしていきたいのかというところが肝になりそうです。家族が個室でバラバラに過ごすのが心地いい家族もいれば、小さな家で集まって過ごすのが心地いい家族もいます。家族の過ごし方から家の大きさを考えてみるといいのかもしれませんね。
鈴木淳さんはロジカルな設計をしている一方で、とっても大らかな面も合わせ持っています。それによって合理的でありながらもガチガチにストイックにならない、親しみやすい家になっているのだと思います。
狭小住宅に興味がある方、狭小地で家を建てなければならない方は、一度ネイティブディメンションズさんのWEBサイトとブログをのぞいてみてはいかがでしょうか?

文/鈴木亮平
写真/鈴木亮平・布施貴彦

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